セルフガソリンスタンドと障害者差別解消法
2021年5月、障害者差別解消法の一部が改正・可決され、これまで努力義務とされていた民間事業者による合理的配慮の提供が法的義務となりました。今年東京で開催された東京オリンピック・パラリンピックの開催やSDGsの推進により「心のバリアフリー」等の取り組みが注目され、益々社会の関心が高まってきています。さて、今回は当法人も運営しておりますセルフガソリンスタンドにおける障害者差別解消法の合理的配慮の部分を中心に当店の取り組みを交えてお話をさせて頂きます。
【目次】
1.障害者差別解消法とは?
2.SS業界の現状と合理的配慮の提供
3.ブルーミング阿倉川SSの取り組み
4.まとめ
1.障害者差別解消法とは?
全ての国民が、障がいの有無に関わらず、相互の人格と個性を尊重し合う共生社会の実現に向け、障がいを理由とする差別の解消を推進することを目的として平成25年6月に制定されました。施行後3年を目途に必要な見直しを経て、令和3年5月に可決、同年6月4日に公布されました。改正による見直された大きなポイントは「合理的配慮の不提供の禁止」が、民間事業者の努力義務が法的義務になり、様々な場面で事業者に対して障がい者から何らかの配慮が求められた場合、事業所側は社会的障壁を取り除く配慮を行わなくてはいけないということになります。では「合理的配慮の提供」とは、上述通りで、民間事業者は過重な負担が無い範囲で応じる必要がありますが、具体的な提供方法や事務・事業への影響や費用の過重な負担の範囲の判断は民間事業に任されている為、実践していくには多くの課題があります。しかし、この法律に違反したからといって直ちに罰則が科せられることはありませんが、繰り返し障がいのある方への権利・利益の侵害に当たるような差別が行われ、改善が期待できない場合は、その民間事業者が行う所管庁から勧告・指導がある場合があります。ガソリンスタンドとなると経済産業省より勧告・指導を受けることになります。
2.ガソリンスタンド業界の現状と合理的配慮の提供
令和元年度で全国のガソリンスタンド数が約3万件あります。平成27年度から連続して減少し続けています。追い打ちをかけるように、電気自動車の普及やカーボンニュートラル宣言による純ガソリン車の新車販売の終了、若者の車離れ等、増々脱ガソリンの流れが強くなることで、ガソリンスタンドの減少の勢いも更に加速していくものと思われます。ガソリンスタンドはお客様自身で給油するセルフサービスと、従業員が給油するフルサービスがあります。全国でセルフサービスが約1万件、フルサービスは約2万件と圧倒的にフルサービスが多いですが、実勢目にする頻度はセルフサービスが多いように感じます。近年フルサービススタンドからセルフサービススタンドに事業転換することが主流になってきています。その理由は、セルフサービスの方が少ない従業員数で運営可能であり、人件費等の経費が抑えられるメリットがあるからです。セルフサービスはお客様自ら給油することになりますので、今後セルフサービス化が加速すると、障がいを持った方や高齢者の方は非常に利用しにくくなります。実例として、フルサービスを提供していたガソリンスタンドがセルフサービスに事業転換したことで給油してもらえなくなった、お願いしたら「すいませんセルフサービスなので・・・」と、断られたというケースがあるそうです。当事者からするとセルフサービスで声をかけるのも勇気がいるとのことで、それを理由に市を超えてフルサービスのガソリンスタンドまで出向き給油する方もおられるそうです。経済産業省の対応指針によると、ガソリンスタンドの合理的配慮の事例として「要望があった場合には安全に配慮しつつ給油に協力する」といった対応が示されています。義務化といっても、過重な負担であると総合的・客観的に判断できる場合は、その理由を説明し理解を得ることを前提に「対応ができない」とすることが認められていますが、元々親切に対応してきたフルサービスが減少の一途を辿る中、今後更に不便を感じることが多くなってきていることは事実です。
3.当店の取り組みについて
最初に宣伝も兼ねて当店の紹介をさせて頂きます。当法人のガソリンスタンド(ブルーミング阿倉川SS【障害福祉サービス事業所 就労継続B型・生活介護】)は平成27年11月にオープン致しました。お店のコンセプトは「親切なガソリンスタンド」です。地域の皆様に支えられ、今年の11月で5周年を迎えることが出来ました。開設に至るまでは燃料油を供給してもらえる元売り企業が見つからず大変苦戦しました。しかし、当法人理事長が元売り各社に手紙を送ったところ、唯一出光興産株式会社様が我々の趣旨に御賛同頂き、素人同然の我々に手厚い支援を下さったことにより、無事にオープンを迎えることができました。さて、当スタンドはセルフサービスですが、お年寄りや障がいをお持ちの方、機械操作が苦手などお困りのお客様には積極的に声をかけるように心がけております。また、福祉業界と同様ガソリンスタンド業界も慢性的な人手不足にあり、より人手に頼らない事業運営にシフトしていく傾向にあります。しかし、当スタンドは「他店がやらないことをあえてやる」ようにしています。特に灯油配達においては、自動車免許を返納し店頭まで買いに来られない高齢者や、移動に制限のある障がい者の方には需要の高いサービスとなりますので大変講評を頂いております。また、店内各所に「ダイバーシティプレイス」(上記写真)を掲示して、多様な人材が働く職場であることを理解して頂けるよう啓発活動にも努めております。お客様や地域の方からは周辺にあるガソリンスタンドと何ら変わらない印象であると思いますが、来店されたお客様への接客やお声掛け、ポスターの掲示により合理的配慮の提供につながる地道な活動を行っています。
4.まとめ
現在日本は人口減少による労働者不足問題に直面しており、今の産業構造を維持していく為に、作業の機械化・自動化により労働力の節約や省力化が進められています。節約・省力化された労働力が少しでも合理的配慮の提供に使われれば良いですが、おそらく慢性的な人手不足に消費されることになるでしょう。日本は先進的な技術を使い、我々は利便性の高い生活ができていますが、まだその技術を享受できていない方が多くいることを忘れてはなりません。また、合理的配慮の提供は機械化・自動化では対応できないことも多くあり、最終的には必ず人との関わりが必要となります。合理的配慮の提供を実践するには、費用や人材が必要であることも理解できますが、まず声をかけて相手の不便に感じていることに耳を傾けることから始めてみてはどうでしょう。その活動の積み重ねが、昨今企業が積極的に取り組むサスティナブルな社会の実現に貢献することになるのではないでしょうか。
*参考資料 機関紙「ぜんせき」 論説8230号
*「出光興産ウェブページ」
https://www.idemitsu.com/jp/news/2017/ide_170403_3.html