厨房コラム~日本人の食事摂取基準2020と四日市福祉会の献立
はじめまして、私は社会福祉法人 四日市福祉会の管理栄養士です。
当法人の厨房運営は直営給食です。直営給食とは、調理従事者を直接雇い、自前の厨房設備で運営していることをいいます。直営給食とは異なり、外部の給食会社へ委託して運営する委託給食という方式もあります。
直営の良さは給食管理と栄養管理が一体となって出来ることだと思っています。そのため、直営給食の施設で働く栄養士・管理栄養士は給食管理と栄養管理の知識が求められます。
今回は、給食管理を行う上で欠かすことの出来ない献立についてです。
1.はじめに
2.日本人の食事摂取基準とは
3.エネルギーについて
4.体重管理の基本的な考え方
5.まとめ
1.はじめに
施設の食事にはどのようなイメージを持っていますか。
「栄養士が献立を考えた食事」と言われると、どのようなイメージでしょうか。
栄養バランスが取れている、品数が豊富、味が薄そう、野菜がたくさん食べられる、良いイメージでしょうか。悪いイメージでしょうか。はじめに、栄養バランスを考える上で日本中の栄養士・管理栄養士が参考にしている「日本人の食事摂取基準」について説明したいと思います。
2.日本人の食事摂取基準とは
日本人の食事摂取基準は、健康な個人及び集団を対象として、国民の健康の保持・増進、生活習慣病の予防のために参照するエネルギー及び栄養素の摂取量の基準を示すものである。(省略)2020 年版については、栄養に関連した身体・代謝機能の低下の回避の観点から、健康の保持・増進、生活習慣病の発症予防及び重症化予防に加え、高齢者の低栄養予防やフレイル予防も視野に入れて策定を行うこととした(「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より)。
2005年版から始まり、2010年版、2015年版と続き現在は2020年版となり、5年ごとに改定されています。
基準値が策定されたものあげると、エネルギー(熱量)、たんぱく質、脂質、炭水化物、食物繊維、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ビタミンC、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン、n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸、飽和脂肪酸、コレステロール、糖質(単糖類または二糖類であって、糖アルコールでないものに限る。)ナトリウムがあります。
聞いたことがあるような身近な栄養素から、もしかしたら聞いたことのないような栄養素も出ているかもしれません。私たち四日市福祉会の栄養士・管理栄養士はこの「日本人の食事摂取基準」を基に栄養量を決めて献立を作っています。
3.エネルギーについて
エネルギーという言葉は聞いた事がある人も多いと思います。単位としてカロリー(cal)が使われているので、この「カロリー」でイメージする人もいると思います。
四日市福祉会ではエネルギー必要量を計算して、献立の基準となるエネルギー量を設定しています。
推定エネルギー必要量=
年齢、性別で異なる基礎代謝基準値(kcal/kg体重/日)×体重(kg)×身体活動レベル
集団に対しての給食ですが、利用者さんの必要なエネルギーを全員分計算してから、施設の基準を出しているのです。
必要なエネルギーが取れているかどうかについては体重管理で把握します。
4.体重管理について
体重管理と言っても、体重を厳しく管理したり、食事の回数を制限したりするものではありません。
毎月体重測定を行い、体重の変動を見ます。エネルギー摂取量がエネルギー消費量を上回る状態が続けば、体重は増加し、逆に、エネルギー摂取量がエネルギー消費量を下回る状態では体重が減少します。
どんな体型の方でも、体重に変動が無ければ、エネルギー摂取量とエネルギー消費量は等しくなるので、良いことなのでは?と思われるかもしれませんが、日本人の食事摂取基準の目指す「国民の健康の保持・増進、生活習慣病の予防」の観点からはエネルギー摂取量が消費量に対して過不足ない状態、つまり、体重の変動がないことだけでは不十分といえます。
重要なのは、目標としている体重の範囲内かどうか、目標とする体重を維持するためのエネルギー消費量であるかどうかです。
たとえば活動量が安定しており、1日1900kcalが必要な方に対して、毎日1600kcalの食事を提供し続けたらどうなると思いますか?
活動量が変わらないまま、毎日300kcal足りない状態が続くと体重は減少します。しかし、ある時期から体重減少は止まり、体重は安定してしまいます。
なぜだと思いますか?
それは、身体活動量が変わらなくても、体重の減少に伴い、エネルギー必要量も減少するため、エネルギー必要量とエネルギー摂取量が同じになる時期に体重は低い値のまま安定してしまうのです。
繰り返しになりますが、重要なのは、目標としている体重の範囲内かどうか、目標とする体重を維持するためのエネルギー消費量であるかどうかです。
5.まとめ
四日市福祉会の献立は1つですが、量については何パターンもあります。基本的にはご飯の量3パターンとおかずの量2パターンあり、これらを組み合わせて、個人にあった食事量を提供しています。量以外にも個人に合わせた対応を行っており、食事を作って出したら終わりではなく、いかに必要な量を全量食べてもらうか、日々考えています。
施設の献立は栄養のバランスが取れているのは当然のことで、私たち栄養士・管理栄養士は必要な量を全部食べてもらうために、利用者さんにとっておいしい食事を常に考えています。
栄養バランスが良くても、食べてもらえなかったら意味無いですもんね。
※参考文献 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html