コラム

福祉士を目指す人へ 障害者福祉について vol.1

「障害者福祉」と聞いてどのような印象をお持ちでしょうか?私が執筆担当をするコラムでは「障害者福祉」について20年余り障害福祉に携わった者として、「福祉士」を取得することに苦労をした者として、「福祉士を目指す人」や「障害者福祉に興味がある人」に少しでも興味を持って読んでいただきたいと思います。そして読んでいただいた方が障害者福祉に携わるきっかけの一つになればと思っています。

目次:

1.社会福祉士の過去問題より

2.知的障害者福祉の変遷

3.まとめ

1.社会福祉士の過去問題より

これは第27回社会福祉士試験共通科目である「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」の過去問題です。

障害者福祉制度の歴史的展開に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。

1.精神薄弱者福祉法において、ノーマライゼーションの促進が目的規定に明記された。

2.重度精神薄弱児扶養手当法の制定当初から、重度身体障害児も支給対象とされていた。

3.国際障害者年を契機として、重症心身障害児施設が制度化された。

4.障害者自立支援法により、身体障害者福祉法は廃止された。

5.障害者差別解消法では、「障害者」について、障害者基本法と同様の定義がなされた。

 

答えは何番だと思われますか?法律や制度についての問題で、それぞれの法律や制度の中身、時代背景などを学んでいないと解けない問題だと思います。私個人は「1」「4」はすぐに切れましたが、残りの3つは悩みました。(これでは正解を導けそうにありません)答えは「5」になります。以下が解説になります。

1.精神薄弱者福祉法(現・知的障害者福祉法)では、ノーマライゼーションの促進は目的規定に明記されていない。反対に、精神薄弱者福祉法の制定は、知的障害者の援護施設の法定化が中心施策であり、18歳以上の知的障害者の入所施設を新たに制度化した点で、施設設置推進政策として指摘されている。

2.重度身体障害児は、本法制度当初は、支給対象とされていなかった。1966(昭和41)年に、重度精神薄弱児扶養手当法を改正し公布された特別児童扶養手当法(現・特別児童扶養手当等の支給に関する法律)において、支給対象を重度身体障害児に拡大した。現在、特別児童扶養手当は、20歳未満で精神または身体に障害のある児童を家庭で養育している父母等に対して、当該児童の福祉の増進を図ることを目的に支給されている。

3.わが国においての重症心身障害児施設が制度化されたのは、国際障害者年以前の1967(昭和42)年における児童福祉法の一部改正の際である。その後、2012(平成24)年の同法の改正により、重症心身障害児施設は、障害児入所施設(医療型障害児入所施設)に移行した。

4.2005(平成17)年の障害者自立支援法(現・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)の制定後も、身体障害者福祉法は廃止されていない。身体障害者福祉法は、1949(昭和24)年に制定され、当初は戦後間もないこともあり、職業的な更生を主たる目的とし、職業的更生が困難な重度の障害者が排除されていた。その後、改正を繰り返しながら現在に至っている。

5.障害者差別解消法第2条第1号において、障害者とは、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう」と規定している。この定義は、障害者基本法第2条第1号におけるものと同様である。

このように福祉の専門職とそれを目指す方にとっては根拠となる法律や制度、その成り立ちについて知っておくことは重要だと考えます。次で日本における知的障害者福祉制度の変遷についてご紹介したいと思います。当法人の成り立ちについて知りたい方はこちらをご覧下さい。

2.知的障害者福祉の変遷

日本で最初に知的障害のある人への福祉サービスを規定したのは、1947年の児童福祉法です。ここでは、障害の有無についての言及はなく、すべての児童が等しく、生活を保障されなければならないという理念が述べられています。その後、1953年に「精神薄弱児対策基本法」が策定されました。この法は、のちの1960年に成立する知的障害者福祉法の下敷きとなったものです。この法律の要綱では、成人も視野に入れており、18歳を過ぎた知的障害のある人にも必要な施策がとられることとなっていました。しかし、この法律には様々な問題点がありました。というのもこの法律では、知的障害のある人の「隔離」と「保護」を前提としていた点です。そのために、具体的にとられた施策は、不良行為を行う知的障害のある人を収用する設備の強化や、優生手術の実施など、知的障害のある人を社会から排除するものでした。また、実際の福祉施策が適用されたのは、18歳未満の知的障害がある子どもだけでした。「隔離」を前提とするような法律の問題点を改善する声があがり、1960年に成立したのが知的障害者福祉法です。この法律でようやく、名実ともに児童から成人までの一貫した支援を提供する事業が整備されました。障害者制度は2003年、2006年、2013年と3度の変革を迎えています。これにともない知的障害者福祉法の位置づけや内容も変化してきました。まず2003年には、支援費制度が導入されました。ここでのキーワードは「障害者の選択の尊重」です。この制度の導入により、それまでは行政が定めたサービスしか受けることのできなかった利用者は、自分に合ったサービスを選べるようになりました。そして2006年には、「障害者自立支援法」が成立しました。ここで福祉サービスにおける障害者の位置づけが大きく変わりました。というのも、それまでは障害の種別によって提供されるサービスは分かれていたからです。障害者自立支援法の成立により、障害の種類や年齢にかかわらず、障害のある人たちが必要とするサービスを利用できるように、利用のしくみが一元化されました。そのために、それまで知的障害のある人を対象として提供されていたサービスの多くが障害者自立支援法という共通の制度のもとで一元的に提供されることになりました。2013年には、上記の障害者自立支援法の改正法として、障害者総合支援法が成立しました。ここで、よりよい支援を行うことで施設を退所する障害者が省令で追加されるなど、障害のある人が自立した日常生活、社会生活を営むことが法律の目的として定められています。
このように知的障害に関わる法律、制度は様々な変遷を経て現在のものになっています。整備されるまでには知的障害者自身や知的障害を持つ親、福祉事業者による働きかけや国際情勢など社会の動きを反映して成立していった経緯があります。

3.まとめ

知的障害者に関連する法律や制度はご紹介したもの以外にも「障害者の権利に関する条約」のような国際条約や「障害者差別解消法」や「障害者虐待防止法」のような関連法令、自治体独自の条例などもあります。我々専門職や福祉士を目指す方は少しでも法律、制度を知り、自分自身だけでなく社会全体が仕組みを理解し、障害を持つ人々が暮らしやすい環境を整えていくことが役割だと思います。このコラムを読んで「福祉で働いてみたい」と思われ方はこちらの当法人採用情報にアクセスしてみてください。

【参考、引用資料】
中央法規「2017社会福祉士国家試験過去問題解説集」
リタリコ発達ナビ https://h-navi.jp/column/article/35026558