知的障害のある方の暮らしを考える
知的障害のある方の親なき後の生活について、不安に思っている親御さんや悩んでいる支援機関の方は多いのではないでしょうか。入所施設に入るにはどうしたらいいのだろう、グループホームでもしっかりみてもらえるだろうか、最近は一人暮らしやシェアハウスをしている人もいるって聞いたけど…など。悩みは尽きません。
そこで今回は、知的障害のある方の暮らしについて、国の動向も踏まえながら考えたいと思います。
【目次】
1.地域で生活を送るための制度やサービスの整備
2.実際に地域での生活は進んでいるのか?
3.将来の生活を考える上での出発点は、本人の希望です
4.今回のまとめ
1.地域で生活を送るための制度やサービスの整備
現在、国が示している基本指針の一つに“地域移行”があります。それは、入所施設や精神科病院から退所、退院をして住み慣れた地域で自分らしく暮らすことを目指すものです。日本での地域移行に大きな影響を与えたものの一つに、2014年の障害者権利条約の批准があります。その第19条には、「本人の意思に反した施設入所を、原則、認めない」ということが示されています。そして、国内法では平成24年度に障害者自立支援法(障害者総合支援法)において地域移行支援、地域定着支援が新設され、平成26年度には重度訪問介護の対象が拡大されました。また、平成30年度の法改正でも自立生活援助、日中サービス支援型のグループホームなど新たなサービスが創設されています。他には障害福祉計画の中で地域生活支援拠点の整備を位置づけたり、住宅セーフティネット法で居住支援法人が制度化されたりと、地域で安心して生活を送るための制度やサービスが少しずつ整備されてきました。
2.実際に地域での生活は進んでいるのか?
このように国は地域移行を進めるために、様々なサービスを制度化してきました。しかし、地域移行は思うように進んでいないようです。都道府県や市町村で作成が義務付けられている障害福祉計画にもそれが表れています。3年ごとに見直されるこの計画では、入所者の削減率の目標値が示されています。第3期(2012~2014)には、10%だったのが、第4期(2015~2017)には約4%、第5期(2018~2020)には約2%と低調な目標値となっています。厚労省はその理由として、入所者の障害の重度化、高齢化の増加により地域移行を推進することが困難になってきていること、重度化に対応したグループホームおよび在宅者の地域生活を支援する地域生活支援拠点の未整備により、施設入所ニーズが依然として一定数見込まれていることなどをあげています(※1)。
3.将来の生活を考える上での出発点は、本人の希望です
将来の生活を考える上で重要なことは、重度の知的障害があるから入所施設だ、社会の流れから考えれば絶対に地域生活だということではなく、本人がどういった生活を望んでいるのか、どういった生活スタイルが合っているのかということです。「私は、寂しがり屋だから今はたくさんの仲間とわいわい生活したい」、「僕は災害のことが心配だから頑丈な建物で暮らしたい」、「他人と生活するのはしんどい」など、それぞれが思う生活の形は様々です。こういった希望を聞いた上で、施設入所というサービスを使おう、アパートを借りて一人暮らしするために重度訪問介護でサポートしてもらおうという手段を考えていく必要があります。本人の希望が出発点です。中には「入所施設に入りたい」、「グループホームを利用したい」と手段がすでに含まれている場合もあります。そのような場合でも、どういった理由があってその手段を選んでいるのかを丁寧に聴きながら、新たな提案も含め、希望する生活の実現に向けて一緒に考えていくことが大切だと思います。
4.今回のまとめ
一昔前に比べて生活の仕方は多様化してきました。まだまだ制約は多いですが、知的障害のある方の暮らしも同様です。様々な暮らし方の中で、当然人によって求めること、優先したいことは違います。将来の生活について検討する際には、どのような暮らしがいいのかという本人の声をしっかりと確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
※1 小澤温 「これからの障害者支援施設に求められる役割・機能とは」 さぽーと(2019.12)17-18