コラム

子ども食堂の意義とボランティア活動

子ども食堂という言葉を耳にしたことはありますか?近年、核家族化、グローバル化などの影響により、地域における繋がりの希薄化から虐待や孤独死など、地域の中で多様な課題が出現しています。
そうした状況の改善策の一つとして、数年前から注目を集めている取組の一つに「こども食堂」があります。
今回のコラムでは、筆者の子ども食堂でのボランティア活動を通じて、子ども食堂の意義や社会福祉施設職員としてできることについて、ボランティア活動に関心をお持ちの方などの参考になればと思っております。

【目次】
1.こども食堂とは
2.「地域交流拠点」としての子ども食堂
3.社会福祉施設職員としてできること
4.まとめ

1.こども食堂とは

「こども食堂」は、「地域食堂、みんなの家などという名称にかかわらず、子どもが一人でも安心して来られる無料または低額の食堂」[i]とされています。2023年2月時点で、全国に7,363箇所(むすびえ、地域ネットワーク団体調べ)存在することが確認されており、年々増加しています。
近年、広がりを見せている「こども食堂」の先駆けとなったのは、2012年に東京都大田区で「気まぐれ八百屋だんだん」を経営する近藤博子さんが、知人の小学校の副校長から困窮家庭の児童の話を聞いたことをきっかけに「あなた(子ども)が一人でも来ていいんだよ」 というメッセージを子どもに届けるために「こども食堂」という名称を用いて食堂を開催したとされています[ii]
現在、子どもの相対的貧困率(17歳以下)は、2018年時点で13.5%(厚生労働省2019)[iii]であり、「7人に1人の子どもが貧困状態」 とされていますが、その状況は目に見えるものではないため、人々にとって実感を得ることは難しいのが現実です。そのため、こうした困窮家庭にある子どもたちや課題を抱えている子どもたちに、一地域住民としてかかわることは、容易ではありません。しかし、誰でも来れる「子ども食堂」であれば、家庭事情を話さずとも、課題を抱えた子どもたちが自然と参加できます。また困窮している家庭の子どもではなくても、家庭環境が複雑であったり、悩みを抱えている子どもたちなどの居場所にもなり得ます。
子ども食堂の対象を“一人親家庭のみ”などと限定している子ども食堂もありますが、大半の子ども食堂は、誰でも気兼ねなく来られるようにという趣旨で開催することによって、さまざまな境遇の子どもたちが自然と参加できるようなしくみづくりがなされています。

2.「地域交流拠点」としての子ども食堂

「こども食堂」は、子どもの貧困対策だと捉えられがちですが、実はそれだけではない「地域交流拠点」としての役割があると社会活動家の湯浅さん(2019)が子ども食堂の2つの意義を提示しています[iv]。この「地域交流拠点」としての役割によって、困窮している子どもだけではなく、ボランティアで関わる大人や親子で参加する大人にとっても重要な居場所となっているのではないかと私自身実感しています。子ども食堂を利用している人には、親子で利用する人も多くいらっしゃいます。「家だとあまりご飯が進まないのにここだとよく食べてくれる。」「今日はご飯作りを休むことができるので、気持ちにゆとりが持てて嬉しい。」など、大勢で食事をする機会が少なくなった今、子ども食堂で“わいわいがやがや”と食べることが親にとっても子どもにとっても楽しみになっているという声をよく聞きます。こうした場所があることで、子育ての悩みを相談したり、同じ子どもを持つ人と交流したりできることで、親にとっても有難い場所になっているのかもしれません。
子ども食堂という名称から、子どもが中心と思われがちですが、子ども食堂にはさまざまな人が関わっている場合が少なくありません。筆者が住む地域の子ども食堂には、地域の自治会メンバーや民生委員さんだけでなく、学生や子育て世帯の親、地域の医療機関や福祉施設、そして企業まで、実に幅広い人や機関が関係しています。この子ども食堂が開始されたときは、まちづくり協議会の方が中心でしたが、実際に主体となって実施しているのはまちづくり協議会のメンバーではない人も沢山含まれています。ボランティア活動をしている人の中には、地域の高校生もいます。高校生は、年齢的にもさまざまな悩みを抱える時期でありますが、ボランティア活動を通して、自身の役割や他者との関係性などを学びながら主体的に動いてくれています。時にはイベントなどを自分達で企画し、実施して、子どもたちを楽しませてくれています。子ども達も優しいお姉さんやお兄さんに遊んでもらえて、とても楽しそうにしています。また、医療機関や福祉施設の職員は、ボランティアとして(有償の場合も含む)提供する食事作りを担ってもらっています。食事がなければ、子ども食堂を開催することはできないので、とても重要な役割です。材料の配分や調達から味付けまで、専門的な技術によって活動に貢献しておられます。それに加えて、筆者のような子育て中の親もボランティアに参加しています。子ども達は、親がボランティアをしている間、子ども同士で遊んだり、託児の担当者を置いて、子育て中の人もボランティア活動ができる環境を用意して行なっています。私自身、このボランティア活動を始めた当時は、引っ越してきたばかりで、子育てについて相談できる人や気軽に話せる人が少なかったのですが、このボランティア活動を通して、素敵な先輩ママさんに出会うことができました。子育て中の人でも、地域でできることがあることを知ってもらいたいと思っています。そして、食材や配布物については、地元の企業や農家さんからの寄付、スターバックスコーヒージャパン株式会社などから物資を寄付してもらうことも度々あります。
このように子ども食堂は、多様な人が参加・参画して成り立っています。時には食事をしにきている子ども達や親御さんが「今日はボランティアの人少ないね。片づけ手伝うね~」と言って、ボランティアをして帰ってくれる人もいます。また子ども食堂のボランティア活動をしていると、地域の子ども達の顔を知ることができます。逆に子ども達も地域の人の顔を覚えていきます。私も過去に「あ、子ども食堂の人や!」と言われたことがありました。このように地域の中で、顔の見える関係性が自然と築かれていくのです。こうした年齢や職種などに捉われない「人と人とが自然に支え合い、助け合える繋がり」が、子ども達の育ちを育む地域の中でできていくこと、それが「地域交流拠点」としての子ども食堂の役割であると思います。

3.社会福祉施設の職員としてできること

子ども食堂を開催していくためには、食材を寄付してくれる人や活動に協力してくれる個人や企業の方、地域のボランティアの人などの運営管理が必要になります。どの子ども食堂でも、中心となってそれらの運営管理を行っている人がいると思いますが、やり方はそれぞれの子ども食堂によって異なります。筆者がボランティアとして、子ども食堂の立ち上げに携わったときは、それらのしくみを整えていく必要があり、他のボランティアの方々と共に悩み、考え、進んできました。その過程では、自身のことで精一杯になってしまい、ボランティアをすることを心から楽しめない時がありました。その際に、自身がボランティア活動をすることについて、色々と考えさせられました。このボラティア活動の中で、一番大切なことは活動を継続していくことだと思いました。子ども食堂の活動が一時のブームで終わってしまわないようにするためには、長く続けていくことができるようにしていく必要があると感じるようになりました。ボランティア活動をする人たちも、そこに集う人も、その時間を楽しめるようにしていくことが継続していくためには必要です。また同時に社会福祉施設の職員として、自身にできることがあるのではないかとも考えるようになりました。社会福祉施設職員として、ボランティア活動を行うことは、施設が所在している地域や地域住民について、自身が理解することに繋がり、地域の課題を発見することにもなるからです。これからの社会福祉施設職員は、施設の中だけで業務を完結するのではなく、地域にも目を向けていくことが求められています。子ども食堂のボランティア活動を通じて地域を知り、地域や地域住民の考え方などを理解していくことは、最終的には施設と地域との関係性にも繋がっていくのではないかと思います。そのような活動を通じて、施設を地域の人に知ってもらい、いつか体制を整えた上で、利用者さんと一緒に子ども食堂のボランティアに参加できたらと思っています。

4.まとめ

子ども食堂は、地域における多様な人が交わりながら、子どもの成長を育む場所となっています。家庭や学校だけではない、さまざまな繋がりを通じて、大人にとっても子どもにとっても大切な時間と場所になっています。が楽しいひと時となります。もしボランティア活動に興味を持っている人がいましたら、こうした子ども食堂の取組などを通じて、自身にできることから始めてみてもらいたいと思います。きっとあなたにしか出来ないことやあなただからできることがあると思います。どなたかのご参考になれば幸いです。

参考文献:
[i]2022年度こども食堂全国箇所数発表(2023年2月 確定値)|新着情報 – むすびえ (musubie.org)
[ii]湯浅誠-論文「こども食堂の過去・現在・未来」.pdf (musubie.org)(2019)/ 地域福祉研究
「地域福祉研究」編集委員会 編 (47), 14-26, 日本生命済生会)
[iii]厚生労働省2019年 国民生活基礎調査の概況
[iv]湯浅誠-論文「こども食堂の過去・現在・未来」.pdf (musubie.org)(2019)/ 地域福祉研究
「地域福祉研究」編集委員会 編 (47), 14-26, 日本生命済生会))