コラム

障害者福祉施設とパン屋さん

障害者福祉施設にて、作業の一環として木工品や布製品等を作って販売している事業所をよく目にすることはないでしょうか?
三重県内でも多数のそのような施設がありますが、その中には飲食店を営んでいる施設やパンやお菓子などを扱っている事業所も見かけると思います。
当法人でもパン工房を運営しており、店頭販売、配達、飲食店への卸しなどをさせていただいております。
そこで、今回はパン工房に勤務している職員にしか分からない、福祉施設においてのパン工房のお仕事についてお伝えしていきたいと思います。

【目次】

1.福祉施設のパン屋さんの在り方について
2.パン工房内で働く利用者さん
3.パン工房の職員の役割
4.まとめ

1.福祉施設のパン屋さんの在り方について

当法人のパン工房は1995年にオープンし、今年で29年目を迎えます。長い歴史をもつパン工房であると同時に、障害のある方の作業場としてもあり続けています。工房内では、利用者支援をしながら作業をするので従業員は「施設のパン屋」という意識を持ちがちです。しかし、お客様からすると「普通のパン屋さん」でなければならないと思うのです。「施設のパン屋だからこれくらいで大丈夫」と妥協することをせずに営業していくことが当たり前という意識を持って日々取り組んでおります。
また「四日市福祉会」という大きな組織の中の一つである、「パン工房ブルーミング」に来たお客様が「普通のパン屋と言うだけでなく、障害を持った方の為のこういう施設のパン屋があるんだ。」と気付いてもらえるように普通のパン屋さんであり続けたいとも思っています。しかし、地域に根付いたパン工房を運営してくことだけでなく、利用者さんの支援をするというのは簡単なことではありません。パン工房を営業するにあたって、大きな課題の一つが利用者さんの確保や定着です。

2.パン工房内で働く利用者さん

長い歴史の中で、沢山の利用者さんが働いていましたが、現在は2名のみとなっています。その少なくなってしまった背景には衛生面での難しさ、作業の難しさ、利用者さんの高齢化などの複数の問題や理由があります。お客様に食べる物を提供させていただいている以上、食の安全性、衛生面の問題は外せない一つだと言えますが、基本の手洗いや、制服などの清潔保持等でクリアできずに、働ける対象ではなくなってしまう方が多いのです。見守りや支援で清潔を保持できる利用者さんでも、なかなか職員が終始付き添うことは困難であるため難しいのが現状です。
作業内容も、機械を扱う仕事で危険が伴うことや、計量などの細かい作業で1g単位の正確さを問われる作業などはハードルが高いことが多く、なかなか利用者さんメインでの作業のもと、営業が出来ません。現在働いている2名の利用者さんには、袋入れしたパンの仕分けをする作業、鉄板の掃除、チョコチップ等の決められたグラムを計る作業など補助的な作業をやっていただいています。将来的には、もっとパン工房内の仕事に利用者さんが関わっていただけるように改善していきたいと思っております。

3.パン工房の職員の役割

施設内のパン工房で働く職員として、難しいのは「パンを作るだけ、販売するだけ」に重点を置きすぎない事だと思います。しかし、「パンを作る」と言うのは知識や経験などに加え、「感覚」というものが大事な仕事です。早朝からの作業の中で、気候や水温、自分の手の温度などでも生地の状況が変わり、いつもと同じように仕込んでも同じにはならないこともあります。他の人と同じように仕込んでいるのに同じにならないということも日常茶飯事です。何度も繰り返し覚えた感覚で仕込みや成型などを行い、自分の目で見て、感覚で焼きあげるというような難しい仕事です。パンの事だけ考えることだけでも難しい仕事であるのに、そこに「支援」という同じくらい大事な事が組み合わされて完璧にこなすことは困難です。
私も、今年で当法人で働いて15年ほどになりますがパン工房に関わる前は他部署で支援の仕事をしていました。パン工房に異動になり、突然やったこともないパンの製造業にかわり、転職したような気分だったことを覚えています。パン工房で10年ほど経験した今となっては、早朝からパンの仕込みや窯の作業などパン屋として大事な仕事をさせていただいていますが、どこかで学んできたわけでもありません。それこそ経験してきた「感覚」でこなしています。支援をしてきた経験を持ってパン工房で働くことになったので、支援とパンの両立の大事さに気付くことが出来たと同時に、難しいことにも気づけました。

4.まとめ

パン作りと支援を両立させるのは本当に難しいことです。だからと言って、「支援」ということを考えることが困難だから「パン」のことだけ考えるということはできません。なので複数名の従業員とともに連携し合って「パン工房ブルーミング」という作業場を作ることが大事なのだと思います。ある人が大事な作業をしている時は、他の人が利用者さんの支援を、ある人が支援をしていて手が離せない時は、その人の仕事を他の職員がという思いやり、連携が他の作業場よりも大切なのではないかと思います。
これからも、地域に根付いた老舗のパン屋、障害者施設のパン屋という二つの特徴を持ち合わせたパン工房を沢山の人に知っていただけ、愛されるよう努めていこうと思います。