コラム

『正しい支援とは何か ~エレナの炬火を通して~』

支援を通しての喜びや感動、これで良いかという不安、利用者さんとの関わり方や将来に対する疑問。働く場所や施設、時代は違えど、福祉に関わる人間として似たような疑問を抱くことがあるのではないでしょうか。

特に支援方法や利用者さんたちへの向き合い方は絶対的な正解が無いとされているので、日々の支援で思い悩まれる方も多いのではないかと思います。

このコラム内では、そんな福祉分野で働く人々の問いに向き合った漫画を一つ紹介させていただきます。

【目次】

1.『エレナの炬火』あらすじ
2.支援の正解・不正解
3.作中での問い
4.まとめ

1.『エレナの炬火』あらすじ

漫画を読んでいない方もみえると思いますので、簡単に作品について紹介します。

物語は北方にある架空の小国、ノルド共和国が舞台となっています。

豊かな森林と多くの湖を有するノルド共和国は複数の大国間に位置しており、それ故に戦争の要として狙われ、1939年に隣国の連邦から侵略を受け、敗戦してしまいます。

物語開始時点では戦争から6年経過しており、敗戦国となったノルド共和国も徐々に復興の兆しを見せていますが、戦争時に負ったケガや病気が原因で日常生活を送る事ができない人々は、社会や時代から置き去りになっていました。

身体を動かせない重病人や戦争で重いけが人が集められる施設・紫蘭館で働き始めることになったのが、主人公であるエレナです。エレナ自身も戦禍によって故郷を失っており、出稼ぎとして施設のある町を訪れる場面から物語は始まります。

2.支援の正解・不正解

夫を亡くしせん妄となった女性、故郷や家族の情報が無く殆ど意識の無い男性、手足を損ない家族から見捨てられた青年など紫蘭館で生活を送っている住民も様々です。

作中でエレナが最初に担当を持つことになったヘンリッカという女性は、脳と心の病気のせいで呼びかけや身体接触等への反応がなく、麻痺もある為一人で立つことができません。一日を車椅子の上でぼんやりして過ごしています。

その為館長からは、「食事し、清潔を保ち、夜に寝る」これが出来ていれば十分で、「『必要以上に』生活を賑やかさないように」という説明がありました。

館長がそのような説明をした背景には、ヘンリッカが夫や過去に関連する景色を見ると幸せだった昔の記憶がフラッシュバックし、鎮静薬が必要となるほどの激しいパニックを起こすからという理由があるのですが、館長のその方針に対する意見は人によって様々かと思います。

救えないから、パニックになるからと必要最低限の関わりだけで終わらせたくはない。夫を亡くしたという辛い過去や絶望を思いださないように、静かに過ごしてほしい。どちらの意見も彼女のことを思って考えられたことで、そこに正誤は存在しないのかもしれません。

実際の福祉現場でも同様に、異なる支援方法や意見が存在するけれども、そのどれもが利用者さん本人の事を考えて導き出されたものだということもあるでしょう。

支援方法や接し方に正誤が存在しないという点が福祉分野の難しいところでもあり、魅力でもあるのではないかと思います。

時に対応に悩む事や、難しい支援に遭遇する場面もありますが、利用者さんと一番身近に関わる支援員として、その人にとっての幸せとは何か。作品を通して、それを第一に考える事を忘れてはいけないのではないかと思いました。それに何より、利用者さんと関わることを諦めてはいけないと思います。

3.作中での問い

支援の方法や、住民との関わり方・向き合い方以外にも、作中では様々な問いが投げかけられています。そしてその問いの多くが、福祉で働く人が一度は抱いた事のある問いになるのではないでしょうか。

作中ではある時、戦争で宛先不明になった6年以上前の配達物の一部が「紫蘭館の住民宛らしい」と届けられたこともありました。そのうちの何通かがエレナが担当するとある一人の住民宛であり、手紙内には孫娘によって祖父との再会を望む文が綴られていました。しかし、孫娘は祖父が紫蘭館で暮らしていることも、頭の怪我が原因で何をしても反応が無い状態であることも知りません。祖父の変貌した姿を受け入れるのかも不明なのに孫娘と連絡を取って良いのか、エレナが悩む場面も描かれています。

また、戦時の外傷が原因で7年間意識がなくずっと寝たきりであった住民が目を覚まし、その住民が目覚めた直後に「すぐ故郷に帰りたい」と要望を出す場面もあります。座るのがやっとの状態でそれを望む事は実質的な自死ではないかと議題に上がり、彼の要望を容認すべきか紫蘭館に勤める人々の間でも意見が対立しました。

医者を志し医者助手をしている青年が、医者と共に紫蘭館を訪れた事もあります。

患者とみるか、住民とみるか。医者助手である彼と紫蘭館で働くエレナたち世話人とでは、住民達の状態の見方、捉え方が異なっている点は、注目して欲しいところです。

4.まとめ

『エレナの炬火』を連載しているのは青騎士という雑誌ですが、第一話の試し読みを紹介した記事にて、作品が下記のように紹介されています。

復興を目指す国家の中で、重病人たちは社会から見放されてしまう状況があります。そういった人々が集まるお屋敷・紫蘭館で働き始めたエレナは極限状態の生を目にします。揺れ動く命、その尊さをエレナは決して諦めません。エレナは常に生を肯定し、懸命に前に進んでいきます。
現実においても、さまざまな状況の命があると思います。それらと向き合う時、命の尊さに疑念がよぎることもあるかもしれません。それでも人の命は尊いものであり、かけがえのないものだという願いを込めた作品です。
また「戦後」という問題も扱った作品でもあります。
悲しいことにどれだけ平和を願っても戦争は起こってしまう現実があります。
しかしいずれ戦争は終わります。
そして平和は必ずやってきます。
それでも戦争によって傷ついた国家、国土、社会、人々は残されたままです。

福祉に関わる仕事をしているからこそ、共感できる場面や考えさせられる場面も多く、福祉分野に携わる人たちに是非とも読んでいただきたい作品です。

描写自体も細かい為、福祉のお仕事を知ってもらうこともできると思います。