コラム

ユマニチュード 「優しさを伝えるケア」

最近、障害の分野の虐待に関するニュースを見る事が増えました。他にも保育園での園児への言葉遣いやしつけのような虐待、高齢者施設での暴言、暴力などといろいろなニュースを見ます。場合によっては虐待行為が殺人にまで発展していまい犯罪となるケースもあります。このような様々な虐待が起きる背景として「教育・知識・介護技術等に関する問題」、「職員のストレスや感情コントロールの問題」、「虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等」、「人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ」と理由となる背景は様々です。こういった虐待が起きる背景の前に福祉で働こうと決めた時、人の役の立ちたいとか誰かの支えになりたいとか少なからず考えた事があるのではないでしょうか。そういった気持ちを大切にし続ける事は何かないのかと探していた時に目に入ってきたのが「ユマニチュード」という言葉でした。

【目次】

1.ユマニチュードとは
2.ケアの4つの柱
3.5つのステップ
4.まとめ

1.ユマニチュードとは?

ユマニチュードはフランスの二人の体育学の専門家イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが開発したケアの技法で、「人間らしさを取り戻す」という意味をもつフランス語の造語です。「人は何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学とそれに基づく実践的な技術から成り立っています。この技法の特徴はケアの対象となる人の「人間らしさ」を尊重し続けることです。ケアの現場で彼らがまず気がついたのは、専門職が「何でもやってあげている」ということでした。立てる力があるのに寝たままで清拭をしたり、歩く能力のある人にも車椅子での移動を勧めたり、といったことです。本人が持っている能力をできる限り使ってもらうことで、その人の健康を向上、維持することができると考え、「その人のもつ能力を奪わない」ための技術です。ケアをする人は、ケアを受ける人に、例え反応がなくても「あなたを大切に思っています」「あなたはここにいますよ」というメッセージを発信し続けます。

「見る方法」「話す方法」「触れる方法」さらに、人は「立つ」ことによって、生理学的な効果のみならず、その人らしさ、つまりその尊厳が保たれることから、この4つの要素「見る」「話す」「触れる」「立つ」を「ケアの4つの柱」と名付けました。

2.ケアの4つの柱

「見る」技術

同じ目の高さで見ることで「対等な立場である事」を伝える、近くから見ることで「親密さを伝える事」、正面から見ることで「相手に対して正直である事」を伝えています。逆に、ベッドサイドで寝ている人に立って話しかけるとき、そんなつもりはなくても見下ろすことで威圧的に見えてしまい非言語の否定的メッセージが届いてしまいます

「話す」技術

ケアをする時には「じっとしていてください」「何ですか?」などの言葉を発しがちですが、このような言葉にはそんなつもりはなくても「私はあなたに命令しています」とメッセージを捉えられてしまう事もあります。低めの声は「安定した関係」を、大きすぎない声は「穏やかな状況」を、前向きな言葉を選ぶことで「心地よい状態」を実現することができます。また、相手から返事がない時にはケアの場に言葉をあふれさせる工夫として、ユマニチュードでは自分が行なっているケアの動きを前向きな語彙で実況する「オートフィードバック」という方法を用います。

※オートフィードバック

自分の行っているケア内容を実況中継することです。「今から薬を口に入れます」「今から頭を洗います」「歯磨きをするので口を開けて下さい」などの事です。

「触れる」技術

ケアを行う時、たとえば着替え、歩行介助などで私たちは必ず相手に触れていますが、その時相手をつかんでいることに私たちは無自覚です。つかむ行為は相手の自由を奪っていることを意味し、認知症行動心理症状のきっかけとなってしまうこともよくあります。触れることも相手へのメッセージであり、相手を大切に思っていることを伝えるための技術を用います。具体的には、「広い面積で触れる」、「つかまない」、「ゆっくりと手を動かす」ことなどによって優しさを伝えることができます。触れる場所もコミュニケーションの重要な要素です。

「立つ」技術

人間は直立する動物です。立つことによって体のさまざまな生理機能が十分に働くようにできています。さらに立つことは「人間らしさ」の表出のひとつでもあります。1日合計20分立つ時間を作れば立つ能力は保たれ、寝たきりになることを防げるとジネストは提唱しています。これはトイレや食堂への歩行、洗面やシャワーを立って行うなどケアを行う時にできるだけ立つ時間を増やすことで実現できます。

3.5つのステップ

ユマニチュードではすべてのケアを一連の物語のような手順「5つのステップ」で実施します。この手順は1・出会いの準備(自分の来訪を告げ、相手の領域に入って良いと許可を得る)2・ケアの準備(ケアの合意を得る)3・知覚の連結(いわゆるケア)4・感情の固定(ケアの後で共に良い時間を過ごしたことを振り返る)5・再会の約束(次のケアを受け入れてもらうための準備)の5つで構成されます。いずれのステップも、4つの柱を十分に組み合わせたマルチモーダル・コミュニケーションを用います。

マルチモーダルコミュニケーションとは、言葉以外にも、身振りや視線、表情、姿勢など、複数のモダリティ(様式)を用いてメッセージを伝えることです。この4つの柱を同時に複数組み合わせること、つまりマルチ(複数の)モーダル(要素)を使ったケアが、ユマニチュードの基本です。

4.まとめ

ユマニチュードを使用して援助を行う事で利用者により安心して介助が受けられるようにしていく仕組みだと思われます。人と人の繋がりが大事な福祉の仕事では今後、重要になる支援方法ではないかと考えています。虐待防止法により、今まで良しとされてきた支援も見直していかなければならない時代となっています。丁寧なのは当たり前、親切なのも当たり前、しかし悪い事にはきちんと注意をしなければならない事もあり支援に迷う事も増えているかと思います。しかし、自分の感情をコントロールしていかなければ利用者に対して自分の思いだけをぶつけてしまい、感情だけで注意してしまいます。そこでこうしたユマニチュードの支援方法を学び、日々の支援に落ち着いて取り組めるようになると支援者も利用者も日々が少しでも楽しく安心なものになるのではないでしょうか。

参考文献
日本ユマニチュード学会HP