音楽×福祉
福祉の現場で「音楽」と聞くと、「音楽療法」が思い浮かぶのではないでしょうか。
私は学生時代に、音楽療法を学んでおりました。当時はまだ音楽療法自体の認知度が低く、音楽療法を取り入れている施設は少ない印象を受けましたが、現在では、徐々に広まってきており、現場でも活用されています。
このコラムでは、近年日本において少しずつ注目を集め始めている「音楽療法」に焦点をあてていきたいと思います。
【目次】
1.音楽療法とは
2.音楽レクリエーションとの違い
3.現場での活用場面
4.まとめ
1.音楽療法とは
音楽療法とは、発達障害や精神障害、緩和ケア、病気や事故後のリハビリテーションなど、多くの分野で導入されているリハビリテーションのひとつです。また、日本音楽療法学会(JMTA)による定義では、「音楽の持つ生理的・心理的・社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」とされています。
音楽療法の考え方が生まれたのは20世紀のアメリカで、第二次世界大戦後の健康ケアを目的として発展してきました。日本では1986年に日本で最初の音楽療法研究会が設立され、1996年には音楽療法士の認定が開始、2001年に日本音楽療法協会が発足されています。近年になり、日本でもクライエントのQOL(生活の質)の向上が重要視されるようになり、そのために音楽の力が有効であることが注目されています。
2.音楽レクリエーションとの違い
音楽療法の大きな目的は「治療」にあります。その為、ただ単に歌を歌ったり、楽器を使用するのではなく、「なぜこの音楽を使うのか」「なぜこの動作をするのか」といった目的が明確になっています。この目的には身体的・心理的なものなど、様々なものがあり、この目的と内容を決定し、音楽療法士が行うものが音楽療法です。
一方の音楽レクリエーションでまず必要なのは、利用者さんが楽しむということです。それに付随して、コミュニケーション促進や認知症の予防、体の機能が回復するといった結果が生まれることもありますが、それが音楽レクリエーションの目的というわけではありません。
また、音楽療法の場合、利用する方の状態や目的によっては、集団だけでなく個人に対して行うこともありますが、音楽レクリエーションではグループや大人数で行うことが多いです。
3.現場での活用場面
音楽療法が活かされる場面として、認知症の症状の緩和や介護予防等がありますが、近年障害者分野においても、高齢化の波は押し寄せてきており、活用場面は少なくありません。
高齢者に対し、よく用いられるものとしては、童謡や合唱曲を使い、支援者や他の利用者の方と一緒に歌ったり聴いたり、演奏したりすることで、子供時代や学生時代の楽しい記憶を蘇らせ、気持ちを穏やかにする効果や、脳機能の活性化を促す効果が期待されています。また、対象は高齢者に限りませんが、言語表現が難しい方でも、今の気持ちを打楽器を打つ強さで表して頂くことで、言語以外での表現方法の獲得ができるなど、音楽療法の活用場面は様々です。
他にも、音楽を通して「順番を待つこと」「相手を褒めること」「相手から褒められること」など、コミュニケーション能力を身につけるなどの効果も見込まれており、今後も音楽療法の活用される場面は増えていきそうです。
4.まとめ
音楽療法と聞くと、かしこまったイメージが強く、音楽療法士でなければできないのかと身構えてしまいますが、音楽療法を学んでいなくても、音楽療法の実践方法等を参考にしながら、音楽レクリエーションとして現場で活用できれば、利用者さんの新たな一面の発見や、可能性がみえてくるのではないかと考えています。演奏する技術や知識を持っていなくとも、音楽が好きな人が集まれば、音楽レクリエーションを行うことは不可能ではないと思いますので、今後の支援に活かす方法を模索しながら、音楽の力によって救われる人が増えていくことを願います。
参考元: (日本音楽療法学会)