コラム

支援者として考える“人の強さ・弱さ”

先日、母校である大学の卒後研修会に参加をしました。そこで、お世話になった先生より「たがいの弱さを愛おしむ真の強さ」という内容の講義を聞かせてもらいました。講義の中では先生の今までの人生の中で経験した人との出会い、そこで感じたことや学んだこと等とても多くのことをお話いただき、私自身とても考えさせられる時間となりました。福祉業界では「ストレングス」や「エンパワメント」というどちらかと言えば「人の弱さ」とは逆の考えがよく聞かれます。今回は、「ストレングス」や「エンパワメント」という考えを紹介しながら、「弱さがあるということ」について考え、話していきたいと思います。

【目次】
1.「ストレングス」とは
2.「エンパワメント」とは
3.「弱さがある」ということ
4.まとめ

1.「ストレングス」とは

ストレングスとは、一般的に「強さ・強み」「能力」等と言われ、福祉の中では「支援を必要としている人の持っている意欲や能力、希望や長所」等も意味として含まれます。

昔は、病気や障がいがある人に対して、本人の「できないこと」に着目していました。こうした考えを「医学モデル」と言います。これに対して福祉業界では、1980年にチャールズ・ラップ氏を中心としたグループが当初は精神障がいのある人に対して「できないことに着目するのではなく、できることに着目する」という考えで「ストレングスモデル」を提唱しました。かつての医学モデルの考え方の中では、本人のできないことや課題に着目され、治療や支援は専門職の意見や解釈主体で行われ、治療や支援を受ける本人の意思や希望が尊重されることは難しいとされていました。しかし、「ストレングスモデル」は、支援で必要なリカバリー(障がいがあっても人として尊重され充実した社会生活を送り、地域社会に参加できるようになること)という概念と共に、専門職が主導する従来の医学モデルとは全く異なるアプローチとして広まっていきました。チャールズ・ラップ氏は、「ストレングスモデルの6原則」として以下の6つを説明しています。

・障がい者は回復し、生活を改善して質を高めることができる
・焦点は病理でなく個人の強みである
・地域は資源のオアシスとして捉える
・利用者は支援プロセスの監督者である
・相談援助者と利用者の関係が根本であり本質である
・相談援助者の仕事の場所は地域である

支援者としてストレングスを理解する上で重要なことは「自分自身のことは、自分自身で考え、自己決定できることを尊重し、支援すること」だと思われます。利用者さんの潜在的な力を見つけそれを活かす支援を行うことが、福祉におけるストレングスの理解への第一歩となります。また、ストレングスモデルの考え方は「自ら考え、自ら決定していく」ということなので、支援を決めるのは利用者自身であるこということになります。そのため、私たち支援者はストレングスモデルに基づいて支援をする時に「~してあげる」という言葉は使ってはいけません。同時にストレングスモデルは決して障がいがある人だけに当てはまるものではなく、障がいの有無に関わらず全ての人を対象にすることができると言えます。

2.「エンパワメント」とは

エンパワメントの語源は、エンパワー(能力や権限を与える)です。17世紀~19世紀にかけて、アメリカで黒人に対する激しい人種差別がありました。そんな中1950年代~1960年代にかけて、アメリカの黒人が選挙に参加できる権利や人種差別の解消を求めて公民権運動を行いました。この公民権運動がソーシャルワークの手法となっていた歴史の背景になります。また、1970年代の「フェミニズム運動」もエンパワメントの概念が注目される出来事になります。国際的に援助を必要とする難民や貧困の問題において、社会的にも政治的にも抑圧された人々への支援の手法として用いられ、医療、看護や社会福祉等の分野に導入されていきました。1976年にソロモンが著書の中で、黒人が社会の差別を受けたことにより生きる力を失っている状態を解消させるために、エンパワメントの実践の必要性を訴えました。

エンパワメントの基本的な考え方は、能力や権限は本人が本来持っているものであるというものです。そして、本来持っているはずの能力や権限が、社会的制約によって発揮できない状態に陥っているとい考えます。ソーシャルワークはこうした状態に対して「本来の本人の力が発揮できるようにするにはどうしたらいいか」を考えます。さらに、本来の力を発揮できるようになることで、その方が自信をもち、自分で自分のことについての意思決定ができるようになっていくことにつながっていきます。このようにその方の本来の力が発揮できるようになっていくことを「エンパワメント」と言います。

社会的弱者と言われる方々を支援する時、たとえば「障がい者だから」等という理由で社会性制約を与えられている場面に多く出会います。そうした時に、その方の本来持っている力は何だろうかと考え、その力を発揮する方法を検討します。その「本来持っている力」を考える時に必要なのは、前項で述べた「ストレングス」という視点です。その方のストレングスに注目し、そのストレングスを活かせるような方針を考え、実行していく中で、その方のさらなるストレングスを発見されることがあります。また、障がいによって社会的制約ができてしまう状況に対して、障がいのない人と同じように行えることを目的に行う対応を「合理的配慮」と言います。こうしてどんどんとその方の力が発揮されていく状態も「エンパワメント」と言えます。そのため、「ストレングス」と「エンパワメント」は一見比較されてしまうこともありますが、比較するものではなく、2つの視点で、可能な限り自分で解決していく力を強め、自分の強みを見つけ活かすプロセスもしくはその結果となります。

3.「弱さがある」ということ

さて、前2項では福祉業界の考え方で大切とされている「ストレングス」や「エンパワメント」について述べてきました。大学の先生の講義の中でもこの2つの視点の大切さについても話がありました。その時、改めて支援者として大切にしなければいけないことを考えさせられたと同時に、先生の「人は必ずしも弱さを持っている、それを忘れてはいけない」という発言がとても頭に残りました。「弱さ」を簡単に表現するとネガティブや不得意・苦手なこと、コンプレックス等かと思います。人は何かしらの言動を行う時に「できないこと」「苦手なこと」といったどちらかと言えば自分の「弱さ」と思われることを前に出す人の方が多いかもしれません。これは、「日本人は謙虚である」とよく言われることも影響しているかもしれません。私自身、自分の強みと弱みを考えた時、弱みの方がたくさん思い浮かびます。そしてその弱みを簡単に拭い去ることはなかなかできないことも事実です。

「弱さがある」と聞くと一見あまり良い印象にはならないかもしれません。しかし、「ストレングス」のように「強み」があるということは同時に「弱さもあっていい」ということを先生の話の中で再認識することができました。「弱さを持って、強みを活かす」ことを改めて痛感させられました。

4.まとめ

私は支援者として日々働く中でできる限り「その人のできること」に着目して、いろいろな物事をできる限りプラスに捉えるようにしています。しかし、逆にその人のできないことや課題といったところにいつまでも執着している自分もいました。その度に「これでよいのか」と考えることばかりでした。しかし今後は支援者としてはもちろん一人の人間としても「その人の弱さ(できないことや課題となること)に寄り添い、強みを活かすことを大切にできる者」になっていければと大学の先生の講義をきっかけに考えることができました。今回の話で皆さんの中で物事の考え方や人間関係等、些細なことでも考えるきっかけになればよいなと思います。

引用:【比較】エンパワメントとストレングスとは?介護福祉職による支援方法 vol.45 – 介護ラボ (kanalog-kaigo.com)

https://kanalog-kaigo.com/2020/07/28/vol-45/

ストレングスモデル~「できないこと」より「できること」に着目~| 京都光華女子大学 健康科学部 医療福祉学科 社会福祉専攻 (koka.ac.jp)