コラム

当法人における新型コロナウイルス対策の歩み

はじめに

新型コロナウイルスが全世界でパンデミックを起こし、様々な社会的影響を与えて、すでに2年以上が経過しようとしています。この二年間、当法人でも感染者・濃厚接触者は度々、発生しております。しかしながら、2021年から始めた感染対策の改善と充実化、職員と利用者方のご協力もあり、なんとかクラスターを発生させずにここまで事業運営を継続することができております。今回のコラムでは当法人の感染対策におけるこれまでの歩みとこれからについて紹介していきたいと思います。

【目次】
1.2021年の感染対策改革の背景
2.感染対策改革の第一歩
3.実際にコロナ禍を経験してきて見えてくるもの
4.まとめ~今後の感染対策について~

1.2021年の感染対策改革の背景

2021年の段階で、当法人の感染対策は、不十分と評価されても致し方ない状態でした。今となっては、生活様式の一つとして組み込まれている手指消毒、その必要物品であるアルコール製剤が、手が届く場にないことが多々ありました。口腔ケア・排泄ケア時のエプロンや手袋を装着する習慣も定着してはいませんでした。しかしながら、社会福祉施設において、そうした感染対策用品を充実させることは容易なことではないことも事実です。
その事は、社会福祉施設における高いクラスターの発生率からもお分かりいただけるのではないでしょうか。設備、物資、人材、教育、全てが十全に機能して感染対策は効果を発揮すると私は考えております。その点、医療機関でない福祉施設では感染に関わる費用その全てが法人負担による持ち出しとなりますので、多くの福祉施設では、その費用に対して消極的であったのかもしれません。実際に、2021年の当法人における感染対策用品に関する予算分配は微々たるものでした。年間を通しても、手袋、エプロンだけで10数万程度で済むコストだったと記憶しております。半面、ノロウイルスの集団発生など感染症対策について不十分であった証左となる現象が過去にも認められています。
それなりのコストを金銭であれ、マンパワーであれ、投資しなければそれなりの感染症対策となり、結果、利用者のQOLの低下、また安全な労働環境を職員に提供できないことに繋がること、当法人では考えております。
特に、新型コロナウイルス流行初期の型であったデルタ株では、感染力もさることながら、その重症化リスクの高さが注目されていました。感染対策が不十分な施設において、デルタ株が猛威を振るえば、利用者の健康、職員の健康を害することは明白です。そのような一つの分水嶺の時期に、当法人は感染対策改革の取り組みを進めることになりました。

2.感染対策改革の第一歩

2021年4月から新型コロナウイルスの対策も含め、法人全体の感染対策をどうにかして改善していきたいという法人の意向を受け、これまで感染症に尽力してくださっていた、理学療法士と連携をとり、また、緊急感染症対策委員会として管理者、理事長とらもグループワークを行いながら、法人の改善案を議論していきました。そうした中で、まず着手していったのが、マニュアルの整備となります。当法人にもその時点で感染症に関するマニュアルは作成しておりましたが、新型コロナウイルス流行に関連して、大幅な見直しが必要な状況でした。また、専門職としての知見が必要な要素も多く盛り込まれていく必要があり、大幅な改定と見直しを行いました。新型コロナウイルス感染症に限らず、流行の恐れのある新規感染症に対応するため、法人における感染対策の基本方針を、具体的かつ効果的に説明できるマニュアル作成を目標に、取り組んだ次第です。
しかし、マニュアルを作成しても、現場で活用しできていなかったり、マニュアル自体の説明が無ければ、現場は実際の業務時に混乱してしまいます。そのため、感染症対策に関連する研修を新たに構築し、緊急度必要度の高い取り組みとして、各事業所のご協力を得て、全職員に対して実施しました。特に、個人防護具(PPE)の装着手順や手指衛生の実施など、実際に演習として正しい見本を元に行なわなければ学習しきれないと考えたため、一度きりでは無く、振り返り研修も行いました。また、新人研修にも同様の感染対策研修を新たに創設し、2022年度以降の新たな職員には、基礎的な感染症に関する知識と技術を提供できるよう、新たな仕組みを形作っております。このようにして、当法人では質の高い感染症対策の技術と仕組みを実現できるよう、マニュアルと研修を整備することによって尽力しております。
ただし、理想的な感染対策と社会福祉施設ならではの課題による感染対策実施への弊害があります。例えば、利用者方の異食行動や行動障害に関連して、感染対策用品を常設することが利用者方への危険性を伴うこと、また、利用者方の感染対策上望ましくない行動をある程度許容していくことなどがあります。しかしながら、感染対策の取り組みは0か100かではありません。数多くあるリスクを少しずつでも低減していくことに意味があります。マスク装着が難しい人には強制ではなく、粘り強い声かけを行ない、また実行しやすい環境づくりからアプローチすること。行動障害や拘りが強い方にはその人自身の行動を無理やり変えるのではなく、職員にて、周囲の環境を清潔に保つことで感染リスクを抑えること(定期的なアルコール消毒の実施、環境整備の実施等)。感染対策として取り組めることはたくさんあります。感染対策の困難さを利用者方の責任として押し付けるのではなく、支援者として出来る限り寄り添いながら、確実に実践していく。当法人はこのような方針を持って、可能な限りの持続性のある感染対策に尽力しています。

3.実際にコロナ禍を経験してきて見えてくるもの

当法人においても、新型コロナウイルス陽性は月に数件発生しております。以下のグラフを参考にして下さい。

グラフを見て頂ければお分かりいただけると思いますが、デルタ株が流行していた令和3年度はほぼ、感染者は発生しませんでした。しかし、令和4年度に入って、オミクロン株が主流になると、当法人でも月に3~5人(累計数)の割合で感染者が発生しました。しかしながら、一度の発生に対し連鎖的に感染が拡がることを防止することができ、クラスターを発生させていないことが当法人の感染対策の成果と言えます。
一方、世間を見て見ますと、令和4年度11月時点で、三重県では11月だけで31事例クラスターが報告されております。また、1事例における感染者数は10名から20名となっている事例が記録されています(※1)。
発生している場所も、福祉施設、多機能型小規模施設、医療機関など、高齢の方、障害がある方等、日頃から支援を必要とする方が多く利用する場所での報告が目立ちます。実際、新型コロナウイルス感染症に感染することを完全に避けることはできません。しかしながら、感染する人を同じ場所で増やさない取り組みは、サービス利用者の安全と利益(サービスを受けることによる)、事業の継続性から見ても重要な事柄になると考えられます。そのため、感染症対策によるクラスター予防は、最終的には利用者利益と持続性のある事業運営に繋がると言えるのではないでしょうか。
感染症対策にはアルコール製剤やエプロン、グローブなどお金が掛かることが多数含まれます。また、道具だけ揃えていたとしても、適切に使用しなければ効果を発揮せず、感染症対策に成り得ません。そのため、研修を定期的に開く事、実際に現場で効果的に運用されているかチェックしていくことも重要です。そう考えると、金銭的、マンパワー的なコストがより多く必要となります。加えて、ゴミの問題です。現状、行政からの指示で、福祉施設で発生した感染ゴミは(適切な処理をした上で)、事業ゴミとして廃棄してよいことになっています。一方で、ゴミ収集業者からは、感染ごみの分別が求められています。もしくは、感染ごみとして廃棄受け入れを契約する場合、感染ごみ専用の廃棄BOXが必要となります。それが一箱20Lで2,000円前後となります。エプロン等廃棄した場合、感染症対策的に押しこんだりせず、6~7割程度で密封し廃棄することが求められますから、数回のガウン類の廃棄で廃棄BOXは規定量に達し、新しいものと交換することになります。事業ゴミとして廃棄する何倍もの高コストを掛けることとなります。現状、感染症対策に関連しての補助・加算は福祉施設には含まれておりません。となると、感染対策用品に加えて、ゴミの廃棄についても法人の持ち出しとなります。恐らく、多くの社会福祉施設はこのようなコスト増に対して、かなりの負担感を感じますでしょうし、そうであるからこそ、現状、事業ゴミとしての廃棄が容認されていると考えられます。
つまり、実際のコロナ禍での施設運営は、感染対策の技術の習得だけでなく、人材、ゴミの問題など多くの課題が山積しているので、多くの施設においてクラスターが発生する状況に陥るのは当然であり、少なからず日本の福祉領域全体の課題と言えるのではないでしょうか。

4.まとめ~今後の感染対策について

新型コロナウイルスが株を変え、感染力を高めつつ、様々な社会的な影響を及ぼしている中、幸いなことに致死率が低下してきている傾向が、各国と我が国の統計データから明らかになってきました。
公立陶生病院感染症内科でご活躍されている、武藤医師の資料を参考にすると、全体的な死亡率も0.06%まで低下してきました(※2)。しかしながら、基礎疾患のある方が罹患した場合のリスクは完全になくなったとは言えません。また、強い感染力から感染者数が増えると、医療機関への受診者数が増え、リスクのある方は入院となるので、医療機関の逼迫が引き起こされてしまいます。そのため、これまでと同様、出来る限り感染を防ぎ、また発症したとしても周囲に拡げない取り組みが重要といえるでしょう。
今後、新型コロナウイルスが五類感染症に指定されたとしても、体調不良となれば医療機関への受診が必要です。感染症と分かれば、インフルエンザと同様、療養期間が必要となる為、発症者の休業は避けられません。休業者が増えれば、あらゆる機関で人材不足による弊害が発生しますし、何より発症した方の生活に影響を及ぼします。どちらにせよ、感染対策は常に必要なのです。
感染対策には特別なことは必要ありません。適宜、手指衛生をおこなう事、環境整備をおこなう事、排泄介助、口腔ケアなど汚染を受ける恐れがある場合は適切な個人防護具を使用する事。体調不良が分かった場合はすぐに共有し、周囲に拡げない事。当たり前のことを続けることで、正常な社会生活を継続することができると、当法人は考えております。
これから年末年始と寒さが強くなり、暖房器具の活用などで空気の入れ替えが億劫になったりと感染症が起こりやすい環境が増えてきます。そんな中でも法人全体で協力し合いながら、利用者方、職員ともに健康に生活を続けられるよう、感染対策に取り組んでまいります。
この記事をご覧になった事業者様、また個人様でも、当法人の取り組みにご興味をお持ちになられた方は、遠慮なく当法人へお問い合わせいただければと思います。感染対策を担う看護師等専門職者がご相談承ります。

参考サイト:
(1)三重県新型コロナウイルス特設サイト 閲覧日2022.12.1
(2)公立陶生病院コロナタスクフォース 閲覧日12.1