コラム

「怒りの感情」との向き合い方

誰しもが日々の生活の中で様々な感情を抱きながら過ごしています。その中でも最も強く、特にマイナスの結果を引き起こす原因となりがちな「怒り」に対して皆さんはどのように対処していますでしょうか?私自身も感情に流されてしまい後悔することがたくさんあります。今回はどのように対処していけば「怒り」の感情をプラスに生かすことができるのか考えていきたいと思います。

【目次】

1.アンガーマネジメントについて
2.自分自身の「怒り」に対する向き合い方
3.利用者の方の「怒り」に対してどう向き合っていくか
4.まとめ

1.アンガーマネジメントについて

怒りをコントロールする技術として、「アンガーマネジメント」というものがあります。近年よく耳にするようになった技術ですが、発祥は1970年代のアメリカで生まれたとされており、「怒り」の感情と上手に付き合うための心理教育、心理トレーニングとされています。アンガーマネジメントは「怒らない技術」と表現する時がありますが、「怒りをゼロにする」という意味での「怒らない」ではありません。なぜなら、「怒り」は人間にとって必要な感情であり、また、ゼロにできるものではないからです。怒る必要のあることは上手に怒れ、怒る必要のないことは怒らなくて済むようになることを目標としています。

2.自分自身の「怒り」に対する向き合い方

「イラっとして、思わず不機嫌な対応をしてしまった」「ムカっときて、つい言わなくてもよいことを言ってしまった」など、私自身も公私にわたって心当たりがたくさんあります。そもそも、「怒り」という感情はどのようにして生まれてくるのでしょうか。人が怒りを感じるとき、次の3段間をふむといわれています。
「出来事に遭遇」:何らかの出来事があったり、誰かの言動を見聞きしたりする。
「出来事の意味づけ」:その出来事や言動がどういうことなのかを考え、意味づけする。
「怒りの発生」:意味づけをした結果、自分が許さないものであれば怒りが生ずる。

ここで一つの事例を挙げてみます。車の運転中のAさんがいるとします。Aさんは前にわりこもうとする車を見て、怒りを感じ「絶対に入れないぞ」と車間距離を詰めました。しかし、後ろを走るBさんは同じ状況でいとも簡単にわりこみを許しました。この場合、AさんとBさんが見たものは一緒です。しかし、その車に対してAさんが意味づけしたことと、Bさんが意味づけしたことはまったく違いました。Aさんはわりこみ行為に対して「ズルい。ズルした人が得をすべきではない」という価値観のもと意味づけをしました。それに対して、Bさんは「急いでいるのかな」くらいの意味づけしかしていません。もしかしたら、わりこみをしたドライバーは、身内が危篤であったり、仕事の不測の事態だったりで、やむなく急いでいたかもしれないと考えることもできるのです。このように、怒りの発生をコントロールするには出来事の意味づけが大切となってくるということになり、意味づけにあたっては自分自身の価値観が深く関係しているということがわかります。「〇〇すべき」という価値観で決めつけてしまうのではなく、相手の行動の意味を広く想像することで怒りを生じさせずに済むことも増えるのではないかと思います。
とはいえ、どうしても「怒り」が生じてしまうことはあると思います。そんな時はどのように対処するとよいのでしょうか。「怒り」の6秒ルールというものがあります。どんなに激しい怒りでも、感情のピークは長くて6秒だといわれています。 この6秒さえ乗り切れば、衝動的な行動を起こしにくくなります。 怒りを感じて頭に血が上ったと思ったら、とにかく6秒待つことを習慣づけることも効果的だといわれています。
次に「怒り」をプラスに変えるという方法を考えてみましょう。「怒り」は周囲を破壊する強力なパワーになりますが、上手くコントロールできれば大きなエネルギーになります。皆さんも「失敗をバネに成功を掴む」といったことは多かれ少なかれ経験しているのではないでしょうか。失敗することで感じた怒りや悔しさを上手くモチベーションに繋げたことで良い結果を得たということです。怒りを感じるときは、自分の理想が裏切られたときです。つまり、怒りは「こうありたい」「こうなりたい」という自分の理想の状態を教えてくれるサインでもあります。そのサインをキャッチできれば、自分が進みたい方向性、叶えたいこと、実現したいこと、自分が目指すゴールがわかります。怒りをプラスに活かすためには、まず自分が向かって行きたい理想の状態(ゴール)をイメージすることが大切となってきます。

3.利用者の方の「怒り」に対してどう向き合っていくか

人が怒っているのには事情があります。イライラしている人は、「〇〇するべきだ」という「べき思考」が多かったり、普段から我慢をしすぎていたり、本当は不安やさびしさでいっぱいだったりします。あるいは、体調が悪くて虫の居所が悪くなっている場合もあります。
それはその人の事情なのですが、怒りのパワーは強烈なため、怒っている人が近くにいると、周りの方もイライラしたり、憂鬱な気分になったり、どうしても影響を受けてしまいがちです。なかには、「自分のせいではないか」と自分を責めて萎縮してしまい、他人の怒りを感じるだけでドキドキして具合が悪くなってしまう人さえいます。
怒っている方と向き合う際には、会話ができる環境を整えることから始めます。刺激の少ない個室に移ってもらい話を伺うことが望ましいのですが、怒っているご本人が場所の移動を拒否された場合は、周囲の方々に別室に移ってもらうよう配慮します。
怒りの感情に気持ちがつられてしまいがちですが、怒っている人は「困っている人」だということを念頭に置いて接することが大切です。困っている事情は人それぞれですが、なにかしら困っていて、その問題に対処するスキルを持っておらず、怒りで表現するしかなくなっているのだと認識すると、冷静に「なにか私に助けてあげられることはないだろうか」という視点で接することができるのではないかと思います。
無理に答えを提示する必要はなく、「昨日眠れなくてイライラする」と訴えられた時には「昨夜は眠れずに、つらかったのですね」など相手の言葉をそのまま返してあげるだけでも、相手は話を聞いてもらえたことで少しずつ怒りが収まっていくことがあります。また、怒りが強すぎる時はじっと黙って落ち着くのを待つことも大切で、前の項目でも記したように「6秒ルール」を活用することが有効となる場面もあります。

4.まとめ

「怒り」の裏事情には様々なパターンがあり、人の怒りに遭遇したときに「この人は自信がないのかな」「もしかして、パニックになっている?」と分析しながら、上手に対処していけたらと思います。
反対に、自分がイライラする時は、自分の怒りの元は何なのか、どんな事情があるのか、自分について考えるきっかけになればと思います。
考える力というのは、自他の理解を深め、自分を楽にするために使うもの。そうすれば、人生をより豊かに、いきいきと感じられるのではないかと思います。

【参考文献】
*アンガーマネジメント入門 (朝日文庫)